特殊詐欺、福山で昨年114件——被害5.4億円から電話を守る

市役所職員、警察官、郵便局員などを名乗る電話が後を絶ちません。福山市は、ATMで還付金を受け取る操作は存在しないこと、警察が無料通話アプリで連絡しないこと、「+」から始まる電話番号に注意することを挙げています。数字の大きさに驚くだけでは止まりません。電話を受けた瞬間に何をするか、家庭内で先に決める必要があります。
114件・約5億4千万円——数字の表層と被害の本質
114件で約5億4千万円を単純に割ると、一件当たりは約474万円です。ただし、これは典型的な被害額を示す数字ではありません。高額被害が平均を押し上げる一方、少額の送金や電子マネー購入を何度も重ねさせる手口もあります。「自分はそんな大金を動かさないから大丈夫」とは言えません。
僕は最初、114件という件数に目を取られました。しかし5月末で前年の認知件数を上回ったという市の説明を合わせると、過去の被害を振り返るだけではなく、2026年も増加局面が続くという警告です。市が具体的な機関名を並べたのも、犯人が知らない会社ではなく、日常的に信頼する相手を演じるからでしょう。
詐欺電話は、受け手を驚かせて考える時間を奪います。「還付期限が今日まで」「口座が犯罪に使われている」「逮捕状が出ている」といった設定で、通常なら確認する手順を飛ばさせる。そのため、犯人の話術を見抜く訓練より、電話を切って別経路で確認する仕組みの方が強いのです。
約5億4千万円という金額は、個人の貯蓄が失われただけでは終わりません。老後資金、住宅修繕、医療・介護費、家族への支援など、地域内で使われるはずだった資金が外へ流れます。被害後の心理的負担も重く、本人が家族に言い出せず発覚が遅れる場合があります。被害を責めない相談環境も防犯の一部です。
表層は電話の受け手がだまされた一件でも、本質は、役所や警察への信頼を犯人側が不正利用する構造です。だから個人へ「注意して」と繰り返すだけでは限界があります。通信会社の着信対策、金融機関の送金監視、行政の継続周知、家族の確認経路を重ねて初めて、相手が説得を始める前に止めやすくなります。

ATM還付は100%詐欺——電話を切る条件を固定する
福山市は「ATMでの還付は100%詐欺」と明記しています。税金、医療費、保険料などの払い戻しは、犯人が役所を名乗る典型的な入口です。広島県警察も、役所職員になりすましてATMへ誘導し、口座間送金をさせる手口を還付金詐欺として案内しています。
大切なのは、ATM画面の知識ではありません。「還付」「ATM」「電話で操作」の三つが重なった時点で、会話を続けず切ることです。犯人は画面上の「振込」という表示を別の意味に言い換え、受け手が自分で送金していることを分かりにくくします。ATMへ着いてから家族に相談するのでは遅い場合があります。
金融機関やコンビニでは、携帯電話で話しながらATMを操作する人への声かけが被害防止になります。ただ、本人は「役所から正式に連絡を受けた」と信じているかもしれません。周囲が強く否定するより、「一度操作を止めて、備え付けの電話から金融機関へ確認する」と具体的な中断を促す方が現実的です。
編集としては、市の「100%詐欺」という表現は強いものの、覚えやすさを優先した警告だと読めます。行政から還付がある場合でも、ATMで受給者が操作して受け取る仕組みではありません。まあ、還付という嬉しい言葉ほど、いったん止まる。短いルールですが効きます。
還付手続きの連絡を受けたら、相手が告げた部署名と氏名だけをメモし、いったん切ります。その後、福山市公式サイトや納税通知書に記載された代表番号を自分で確認してかけ直します。着信履歴の番号へ戻さないことが重要です。番号表示自体を偽装する手法もあり、見た目だけでは本物と判断できません。

「+」番号と無料通話アプリ——本物らしさを作る二段構え
「+1」「+44」など、プラス記号から始まる番号は国際電話です。広島県警察は、国際電話番号を使った詐欺電話が急増しているとして、覚えのない番号に出ない、かけ直さないよう案内しています。海外との電話が不要な固定電話では、国際電話の発信・着信を休止する方法もあります。
一方、電話に出た後で無料通話アプリへ誘導される手口にも注意が必要です。福山市は「警察が無料通話アプリでやりとりすることはありません」と明記しました。偽の警察手帳や逮捕状の画像を送って信じ込ませ、ビデオ通話で制服のような服装を見せる事例もあります。画像があるから本物、という判断は通用しません。
警察官を名乗る相手が口座残高を聞く、資金を「調査用口座」へ移すよう求める、通話を家族に秘密にさせる。このいずれかが出たら電話を切り、相手が示した番号ではなく、自分で調べた警察署の代表番号か警察相談専用電話「#9110」へ連絡します。緊急の被害が進行している場合は110番です。
家庭で高齢者だけに注意を任せるのも十分ではありません。仕事中の若い世代にも、未払い料金、通信契約、捜査協力を名目にした電話が届きます。僕自身、知らない番号でも宅配や仕事の連絡かもしれないと思うと、つい取ることがあります。だから「出ない」だけに頼らず、出てしまった後の切断条件を決める方が続けやすいです。
スマートフォンでは、連絡先にない番号を消音する設定や、迷惑電話判定サービスも使えます。ただし病院、学校、配送業者から初めてかかる電話まで見逃す可能性があります。留守番電話へ要件を残してもらい、必要な相手だけ折り返す運用が、生活上の連絡と防犯を両立させやすいでしょう。

固定電話を「説得の場」にしない——留守電と録音
福山市が勧める自宅電話の対策は、非通知着信の拒否、留守番電話の設定、防犯機能付き電話機などの導入です。これは電話を受けた人の注意力を高めるのではなく、犯人と直接話す機会を減らす考え方です。
2026年度、福山市は特殊詐欺対策電話機や接続機器の購入・設置費を補助しています。対象は年度末までに65歳以上になる市民などで、購入費等の2分の1、上限1万円。申請期間は2026年5月1日から2027年1月29日までです。重要なのは購入前の申請が必要なこと。見積書とカタログを用意し、市民生活課へ申請して交付決定を受けた後に購入します。
対象機器には、着信音が鳴る前に録音を告げて自動録音する機能、未登録番号への注意表示、詐欺が疑われる番号の自動切断などがあります。録音警告は、会話を証拠として残したくない相手に電話を続けさせない効果が期待できます。被害を完全に防げるわけではありませんが、普通の電話機より「犯人が話し始めるまで」の壁が一枚増えます。
家族が設定を手伝う場合は、拒否機能を強くしすぎて医療機関や介護サービスの番号まで遮断しないよう、連絡先登録を一緒に確認します。防犯と連絡の受けやすさを両立させる作業です。とにかく、機器を買って終わりではなく、留守電や録音警告が有効かを月に一度確かめたいところです。
補助制度は一世帯一台までで、ナンバーディスプレイなど付随サービスの加入費は対象外です。クレジットカード等のポイントを使った部分も補助対象から除かれます。交付決定前に購入すると対象にならないため、販売店へ行く前に制度ページの手順を確認してください。
家族で共有するのは「手口」より三つの停止条件
特殊詐欺の名称は増え続けます。還付金詐欺、オレオレ詐欺、架空料金請求、キャッシュカード詐欺盗、SNS型投資・ロマンス詐欺。全部を覚えるのは大変です。家庭内では、手口名より停止条件を共有する方が実用的です。
一つ目は、電話でお金・口座・暗証番号の話が出たら切る。二つ目は、ATMやコンビニ、ネットバンキングへ移動するよう言われたら操作しない。三つ目は、警察や役所を名乗っても、いったん切って公表済みの代表番号へかけ直す。家族への相談を禁じる相手は、その時点で信用しません。
相談先は警察相談専用電話「#9110」、最寄りの警察署、家族です。被害に気づいた直後は、振込先の金融機関や利用した決済サービスにも連絡し、送金停止の可能性を確認します。時間が経つほど資金移動が進むため、恥ずかしさから黙ることが最も危険です。
僕が残したいのは、「見抜けなかった人が悪い」という読み方ではありません。2025年の約5億4千万円は、巧妙な役割分担と通信手段を使う側が、受け手の不安や信頼を利用した結果です。対抗する側も個人の勘だけでなく、留守電、録音、着信拒否、家族の確認、金融機関の声かけを重ねる必要があります。
次に確認できる数字は、福山市が更新する2026年の認知件数です。ただし件数が下がるのを待つだけでは遅い。今日から変えられるのは、自宅電話を留守電優先にすることと、「ATM還付」「無料通話アプリの警察」「+番号」の三つを家族の連絡欄へ書いておくことです。
情報源– 福山市「特殊詐欺に注意!」 – 広島県警察「特殊詐欺の手口」 – 広島県警察「最新情報」 – 福山市「防犯機能付きの電話機で特殊詐欺の対策しませんか?(2026年度)」
