福山駅に「見たことない店」精密部品メーカーが異色の店舗をオープン

2026年4月29日、福山駅直結の商業施設「さんすて福山」1階に、株式会社キャステムによる直営店「CASTEM STORE」がオープンした。精密部品メーカーとしてロストワックス精密鋳造技術を主力とする同社が、中国地方で初となる常設店舗を展開する。
同店は同社の全事業を一堂に集めた体験型トータルショップだ。産業用精密部品の製造で培った技術を基盤に、凍らさなくても釘が打てるバナナ型のハンマーや鋼鉄製ロビンマスク、真珠ジュエリー、紙ヒコーキ関連商品、3Dフィギュア化サービス、農園直送の完熟イチゴなど、独自製品を販売する。技術を「楽しく身近に」感じられる場として、福山を代表するお土産の拠点となることを目指す。
キャステムの事業基盤と技術力
株式会社キャステムは1970年2月に広島県福山市で設立された。ロストワックス精密鋳造とメタルインジェクション成形(MIM)を中核技術とし、電車、工作機械、半導体、航空宇宙、医療機器向けの精密部品を製造販売する。ミクロン単位の精度が求められる三次元複雑形状の部品を得意とする。
同社は2017年からBtoC分野に参入した。著名人の手型オブジェや3Dフェイスステッカー、ポケモン関連グッズ、鋼鉄製ロビンマスクなどを企画・製造。令和元年(2019年)には新元号発表から2分27秒後に「令和ぐい呑み」を発売し、メディアで取り上げられた実績を持つ。
さらに多角化を進めている。紙ヒコーキ事業では代表取締役社長がギネス世界記録保持者として知られ、専用紙や書籍を展開。アグリ事業では神石高原町の「神石15ファーム」と宮古島の「パニパニファーム」でいちご・トマトを栽培・直送。ジュエリーブランド「KOHKOH」では特許技術を活用した自由形状の真珠ジュエリーを販売する。
これらの取り組みは、精密鋳造の基盤技術を活かしたものだ。硬く無機質とされる技術を、遊び心のある商品や体験に転換する点が特徴である。

CASTEM STOREのコンセプトと商品ラインナップ
「CASTEM STORE」は「技術はもっと楽しくできる」という理念のもと、精密鋳造技術、商品開発、体験サービスを一体化した店舗だ。ロゴには紙ヒコーキの「A」と歯車の「O」を組み合わせ、遊びと技術の融合を表現している。
主な取り扱い商品は以下の通りである。バナナ型のハンマーは凍らさずに釘を打てるユニークな金属製品で、精密鋳造の強度を活かしたもの。鋼鉄製ロビンマスクはキン肉マンコラボ第4弾で、重量8kg、価格13万2000円(税込)と存在感が強い。累計販売数は300体を超える。
KOHKOHの真珠ジュエリーは母貝を再利用した特許技術により、従来の真珠加工では不可能だった自由形状を実現。History Makerブランドの3Dフィギュア化サービスは、写真や現物から全身・体の一部を精密再現し、価格は2万2000円(税込)から。著名人のフィギュア化実績も豊富だ。
アグリ事業の完熟イチゴやトマトは農園直送で、新鮮さを保ったまま店頭に並ぶ。紙ヒコーキ関連商品は専用紙や本を揃え、店内で飛ばす体験も可能。これらを一つの空間で扱うことで、単なる物販を超えた「体験型」店舗を実現している。
オープンから1ヶ月限定の特典として、税込1000円以上の購入者にAR体験無料チケットを配布する。技術の裏側をデジタルで体感できる仕組みだ。

過去の取り組みと福山駅立地の意義
キャステムは2025年10月10日から12月10日まで、さんすて福山で期間限定ショップを開設していた。漫画・アニメグッズを中心に約200種を展開し、県内初の直営店として反響を呼んだ。今回の常設店は、その実績を踏まえた本格展開となる。
福山駅直結の立地は、JR福山駅利用者や観光客、地元住民の動線に直結する。さんすて福山1階はファッション・雑貨やフードテラスが並ぶフロアで、日常的な買い物客が多い。駅ナカ商業施設の特性を生かし、福山を代表するお土産として同社商品を位置づける狙いがある。
同社は福山市御幸町に本社を置き、地元企業としての役割も果たす。精密部品のBtoB事業で培った技術力を消費者向けに開放することで、製造業のイメージ刷新にも寄与する可能性がある。

技術を身近にする取り組みの広がり
ロストワックス精密鋳造は、ワックス原型を失う(lost)ことで精密な金属製品を作る伝統技術を現代的に進化させたものだ。キャステムではデジタル技術を組み合わせ、小ロット・短納期・多品種対応を実現。産業用部品だけでなく、消費者向けグッズの製造にまで応用範囲を広げている。
類似事例として、他業種のメーカー直営店では技術体験を売りにした店舗が増えているが、精密部品メーカーが全事業を融合したトータルショップは珍しい。紙ヒコーキやアグリ事業との組み合わせは、同社の多角化戦略を象徴する。
オープン初日の2026年4月29日には、駅利用者を中心に多くの来店が見られた。福山駅は山陽新幹線と在来線の結節点で、広島県東部の玄関口だ。こうした交通結節点での店舗展開は、技術広報と販売の両面で効果を発揮する。
同社の取り組みは、製造業が直面する人材確保や技術継承の課題にも一石を投じる。次世代が「技術は楽しい」と感じる機会を提供することで、業界全体のイメージ向上につながる可能性がある。
今後、CASTEM STOREは福山の新たなランドマークとして定着するだろう。精密鋳造の最先端技術を日常の買い物シーンに溶け込ませ、地元経済の活性化と技術文化の普及を同時に進める試みとして注目される。
